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人事労務重要用語

(3)住込みマンション管理人の労働時間

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労働密度が低い場合としてビル警備の仮眠時間の他、住込みマンションや寮の管理人の労働時間が問題となる。両者の違いとしては、ビル警備は、仮眠時間といえども全部が事業場内であるのに対して、住込管理員の場合は、仕事場と私生活とが混在しておりその区別が判然としない場合であり、これをどのように判断するかの問題である。   

・マンション住込み管理員の手待時間の労働時間性を認めた事例である。

■オークビルサービス事件(東京高裁H16.11.24:労判891)
一審判決【要旨】(東京地裁H15.5.27労判852)
 夫婦2人住込みでマンション管理員をしていた。所定労働時間は午前9時から午後6時の8時間勤務であるが、これ以外に、午前7時に管理員室の照明を点灯し、ゴミ置場を開鍵、午前8時30分に冷暖房装置の運転を開始、午後8時に同装置を停止、午後9時に無断駐車確認とゴミ置場施錠、午後10時に管理員室照明を消灯するといった業務があった他、これらの間、勤務時間外であっても居住者からのインターホン呼出しに対応して郵便物等の保管や交付に応じていた。また、土日も住民からの要望もあって、平日とほぼ同様の業務を行っていた。判決は、これら管理日報記載の事実は、一部を除けば、労働者らの就労実態を示すものとして採用すべきとした。ほぼ全日にわたり午前7時から午後10時まで指示業務に従事しており(土日も含めて)、代休も取得していなかったし、会社の指示外の仕事も前任者のマニュアルに従ったものとして実施されている。そして、各指示業務は、断続的であり、その各所用時間が短いけれども、労働者にはそれを遂行するため、当該遂行場所に出向いていたのであるし、その間も住民要望に応えるという役務の提供を求められており、通勤の管理員と比較するときは、個人的な生活時間という側面を併せ持つ住み込み管理員であることを考慮しても、各指示業務間の時間は、次の業務を開始するまで滞留することが命ぜられた状態と同視すべきであり、その間は会社の指揮命令下に置かれていると認めるのが相当である、としてその大部分を労働時間と認めた。
・二審判決【要旨】(東京高裁H16.11.24:労判891)
 一審判決が、日曜祝日や深夜早朝について2人分の賃金請求を認めたのに対して、本判決は、その業務従事中、夫婦の一方は業務を離れて自由な時間利用できたと認められるとして減額したほか、一部の日について不就労が認められるとして減額した。(認容額809余万円⇒643余万円に減額)
 会社が労働時間から控除すべきと主張した、労働者らの所定労働時間内の近隣の病院への通院と犬の散歩に要した時間について、改めて次のように労働時間性を認めた。
「住み込みマンションの管理員業務の遂行は、労働者らの日常生活と一体をなすものであったことが明らかである。そのため、所定労働時間内に、日常行動(日用品の買い物、病院への通院、犬の散歩等)のため時間を割くこともありえることは、業務の性質上当然に予想されることであり、それが長時間にわたるものでない限り、会社の指揮命令権が及んでいるものとみて差し支えない。・・・会社の指揮命令下から離脱した行為であると認めることは相当でない。」

・マンション住込み管理人の時間外労働を否定した事例

■互光建物管理事件(大阪地裁H17.3.11:労判898) 
 ア)所定労働時間外に管理員居室に駐在していた時間について
 労働者は、所定の勤務時間以外であっても緊急事態への対応が義務づけられていたが、緊急事態が生じることが希であると考えられるうえ、本件では勤務時間外の時間の過ごし方に特段の制約が設けられていたわけではなく、労働者が所定の勤務時間外に管理員居室で過ごす時間は、一般人が自宅で過ごす時間と同様に、その自由な利用が許された時間であるといえるから、緊急事態への対応が義務づけられているからといって、それ以外の日常生活時間を緊急対応のための待機時間(いわゆる手待時間)と評価することはできず、また、住込み管理方式が緊急事態への対応の即応性を目的としているといっても、管理員が管理物件内に居住していることに伴う事実上の効果として期待されているにすぎないとして、本判決は、労働者が所定労働時間外に管理員居室に駐在していた時間を、労働からの解放の保障があり、これを会社の指揮監督下にある労働時間と認めることはできないと判断した。
 イ)所定労働時間外の業務従事時間について
 本判決は、会社が、労働者に対し、緊急事態への対応を除き、マンション管理組合との管理委託契約で定められた管理事務取扱時間(午前9時から午後5時、日曜および祝祭日は休務)外での管理の遂行を明示的に命じていたとは認められないとする。また、駐車場の門扉の開閉装置が夜間に故障した際の対応、病人、火災の発生の対応など、管理事務の性質上労働者が当該事務を勤務時間外に行わざるを得ない場合を除き、会社が、管理事務取扱時間外における当該管理事務の遂行を黙示的に命じていたと評価することもできないとする。さらに、ここで会社の黙示の指揮命令下にあると評価できるとされた管理業務取扱時間外の労働者が業務に従事した時間についても、労働者による具体的な主張立証がないから、結局、労働者が管理事務取扱時間外に管理業務に従事したことを理由とする時間外賃金の支払請求は理由がないとした。
なお、管理事務取扱時間外の業務従事時間を、このように一部を除き明示または黙示の指揮命令下にあったとはいえず労働基準法上の労働時間とは認めないことについて、本判決は、労働者は、所定の勤務時間以外でもやむを得ないと考える場合には自己の判断で管理業務を行う必要があるとの考えの下、勤務時間外でも鋭意管理業務を行ったもので、その甲斐もあってか、労働者の管理員在職中に本件マンション住人から苦情が出ることはなかったことが認められる。しかし、会社と本件マンションの管理組合との間では管理員が管理業務として行うべき事項や事務取扱時間が明定されており、労働者としては、管理組合や住人から勤務時間外の管理事務取扱いの求めがあった場合には、単にやむを得ないとしてその求めに応じるのではなく、適宜会社に助力を求めるなどして、管理事務の遂行を管理委託契約の条項に沿ったものに限定するよう管理組合と協議すべき立場にあったというべきである。従って、労働者が会社による明示又は黙示の命令に基づいて管理業務に従事した労働時間と認められるものが前記の限度にとどまることは、やむを得ないというべきである。と判示した。 
 ウ)休憩時間中の労働時間性について
 他方で、本判決は、会社は、管理事務取扱時間の範囲では、労働者に対し、明示的に管理事務の遂行を命じていたものといえるとする。そして、休憩時間とされていた午後O時から午後1時の間を休務とする定めは、管理委託契約にはないから、この時間については、労働者は、会社に対し、明示の指揮命令下にある労働時間として、労働基準法37条に基づいて時間外割増賃金の支払いを求める権利があるとした。また、労働者の所定労働時間は、週42時間であるから、労働基準法32条1項所定の労働時間上限を週当たり2時間超過するから。この超過分についても、労働者は、会社に対して、時間外割増賃金の支払いを求める権利があるとした。

■新日本管財事件(東京地裁H18.2.3:労判916)
 重要な裁判例であるので、重要労働判例一覧(3)に掲載しています。

■ポイント■明示又は黙示の指示があれば、労働時間に該当するということであるが、そのポイントは、管理マニュアル等により具体的に作業指示があるかどうか及びその指示に基づく労働(作業)が実際に存在したかどうかの判断と思われる。