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人事労務重要用語

競業避止義務の有効要件(合理性の判断基準)

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�@秘密として管理していること
秘密管理状態が、秘密であることの認識可能性(特定・表示)、秘密にアクセスする者の制限(人的管理)、アクセスの場所的・物理的制限(物的管理)の三点を満たして維持されていることが必要です。秘密情報が入っているパソコンにパスワード未設定等は論外です。

�A秘密が特有の情報であること
公然と知られているものは、秘密とは認められません。また、他の使用者の下でも習得可能であるような一般的な知識や技能は秘密とは認められず、競業を規制することは困難です。

�B競業を規制する範囲を地理的に限定すること
競業避止義務を地理的に無制限に課している規定は、有効性が低くなりますので、限定することが望ましいです。

�C競業を規制する期間を限定すること
規制の妥当な期間については一概に言えませんが、3年を超える規制は困難と思われます。
同時に定められている諸条件から総合的に勘案して、妥当性が判断されることになります。

�D競業規制に対する代償が有ること
在職中に手当を支給している事例も見られますが、割増退職金のような退職時の金銭的代償措置を実施することのほうが効果的だと思われます。代償措置は、競業規制期間中の元従業員の生活保障という見地から評価して見合うものでなくてはなりません。また、代償措置を講じる際には、競業制限の代償であるという趣旨を明確にしておくことも重要です。


Q:会社は、労働者に退職後、同業者へ転職することや自ら事業を営むことの禁止(競業避止義務)を義務付けられますでしょうか?又、退職時に競業避止義務に関する誓約書に署名してもらった場合、その誓約書は法的に有効でしょうか?

競業避止義務とは、使用者と競業関係にある企業に就職したり競業関係となる事業を開業したりしないという義務をいいますが、直接かつ包括的に規制する法令は存在しません。不正競争防止法は、営業秘密(秘密として管理されている生産方法、販売方法その他事業活動に有用な技術上又は営業上の特有の情報であって、公然と知られていないもの)を事業者から開示された場合に不正の競業その他不正の利益を得る目的で、又はその保有者に損害を加える目的でその営業秘密を使用することを不正競争とし、差止め請求権や損害賠償を規定していますが、同法2条1項7号が課しているのは営業秘密保持義務であり、競業避止義務を課しているとは理解されていません。
在職中の労働者には、使用者の利益が不当に侵害されることを防ぐため、信義則(民法1条2項)に雇用契約に付随する義務として使用者に対する誠実義務があり、就業規則や特約に定めがなくても当然に競業避止義務を負っています。しかし、退職後の競業避止義務については、労働者の退職の自由や職業選択の自由(憲法22条)及び公序(民法90条)との兼ね合い等から、その有効性が複雑になっています。

退職後の競業避止義務は、在職中の場合とは異なり、何らかの特約といった明文化された根拠がなければ認められないと解されています。(通説)次のような裁判例があります。

「習得した業務上の知識、経験、技術は労働者の人格的財産の一部をなすもので、これを退職後にどのように生かして利用していくかは各人の自由に属し、特約もなしにこの自由を拘束することはできない。」(「中部機械製作所事件」金沢地裁S43.3.27)
「会社の取締役及び従業員は、会社との間で退職後の競業を禁止する旨の合意があるなど特段の事情がない限り、退職後、同業他社に就職し、競業する内容の営業活動に従事したとしても、右行為が当然に不法行為に当たるものではないと解すべきである。」(「池本自動車商会事件」大阪地裁H8.2.26)
「原告は、当然導かれる義務として、競業禁止義務を負う旨主張する。しかしながら、労働者は、経済活動の自由を有するのであるから、労働契約上退職後の競業を禁止する旨の特約がある場合を除き・・・、原則として、退職後に従前の使用者と競業する内容の営業を行うことも許されると解される。」(「センメイ商事事件」大阪地裁H11.1.22)

次に、競業避止義務を就業規則等に定める場合及び誓約書を締結する場合に注意すべき点については、以下のような裁判例があります。

「競業避止の内容が必要最小限の範囲であり、また当該競業避止義務を従業員に負担させるに足りうる事情が存するなど合理的なものでなければならない。」(「キヨウシステム事件」大阪地裁H12.6.19)
「競業の制限が合理的範囲を超え、債務者らの職業選択の自由等を不当に拘束し、同人の生存を脅かす場合には、その制限は、公序良俗に反し無効となることは言うまでもないが、この合理的範囲を確定するに当たっては、制限の期間、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無等について、債権者の利益(企業秘密の保護)、債務者の不利益(転職、再就職の不自由)及び社会的利害(独占集中のおそれ、それに伴う一般消費者の利害)の三つの視点に立って慎重に検討していくことを要する。」(「フォセコ・ジャパン・リミテッド事件」 奈良地裁S45.10.23)
 
以上から、競業避止義務に関する規定や誓約書の作成において重要なことは、その内容に「合理性」があるかどうかです。合理性がなければ無効となり、何の役にも立ちません。
では、実際に競業避止義務違反が行われた場合にとりうる措置についてですが、退職金の減額又は不支給、競合行為の差止め、損害賠償請求等が考えられます。まず、退職金の減額、不支給については退職金規程に、退職後の競業行為をした者には退職金の不支給又は減額をするということを明確に定める必要があります。

「被上告会社が営業担当社員に対し、退職後の同業他社への就職をある程度の期間制限することをもって直ちに社員の職業選択の自由等を不当に拘束するものとは認められず、したがって被上告会社がその退職金規則において、右制限に反して同業他社に就職した退職社員に支給すべき退職金につき、その点を考慮して、支給額を一般の自己都合による退職の場合の半額と定めることも、本件退職金が功労報償的な性格を併せ有することをかんがみれば、合理性の無い措置であるとすることはできない。…すなわち、この場合の退職金の定めは、制限違反の就職をしたことにより勤務中の功労に対する評価が減殺されて、退職金の権利そのものが一般の自己都合による退職の場合の半額の程度においてしか発生していないこととする趣旨であると解すべきであるから、右の定めは、その退職金が労働基準法上の賃金にあたるとしても、所論の同法第3条、16条、24条及び民法第90条等の規定にはなんら違反するものではない。」(「三晃社事件」最高裁第二小法廷S52.8.9)

退職金減額については、上記のような最高裁の判例がありますが、競業行為に顕著な背信性が見られない場合は、有効と認められないことがありますので注意が必要です。

「退職金の減額支給条件が抽象的であって、一義的に理解できない場合は、規範的役割は希薄なものでしかないのであるから、背信性が強い場合に限りその適用を許すべき。従って、退職金の減額は許されない。」(「ベニス事件」東京地裁H7.9.29)

また、退職金規定を定める上で注意すべき点は、どこからどこまでの行為をもって退職金不支給(減額)事由とするかといった範囲の記載についてです。裁判においては、規定の不備は、これを制定した使用者に責任があるとの判断がされています。

「退職金規定に明示されない重大な就業規則違反等の事由をもって退職金不支給の事由とすることはできない。規定の不備による不利益は、これを制定した使用者において甘受すべきである。」(「東京コムウェル事件」東京地裁H15.9.19)

次に競業行為の差止め、損害賠償請求については、退職時の競業避止義務を約する特約(退職時誓約書等)を根拠に請求することが可能です。しかし、誓約書があれば直ちに、競業避止義務違反を認められるというわけではありません。その誓約書の内容が、公序良俗に反しない明確で合理的なものであることが必要なのはもちろんですが、誓約書を作成される過程も問われます。特に退職時の誓約書は、その内容が客観的に見て、一方的に労働者にとって不利である場合、たとえサインがあったとしても、本当にそれが労働者の自由意志からの行為であるとは判断されないからです。重要なポイントは「合理性」と「労働者の自由な意思」です。

「本件の退職金は賃金の後払いとしての性格を有すると解されるから、労働基準法第24条1項本文の趣旨に照らし、これを放棄するとの労働者の意思表示は、それが真に自由な意志に基づくものであるかを慎重に検討すべきものである。…原告Eが被告を退職するにあたって被告に対し誓約書�Bを差し入れるべき法的義務は存しない。…原告Eは、これを作成するまで、長時間にわたり退職意思の翻意を迫られていた。このような事実関係からすると、原告Eが自己にとって不利益な内容の誓約書�Bの作成に応じたのは、これを作成しなければその場から解放されず、また退職に伴う諸手続きも履践されないと考えたためであると推認される…そうすると、誓約書�Bの本件放棄条項は…その効力がないというべきである。」(「東京コムウェル事件」東京地裁H15.9.19)
「本件特約は、退職後の被告Sに対し、爾後の職業選択の自由を制約する内容のものである。…これに対し、被告Sにとっては本件特約の見返りとなるものは何もない。…原告が退職金請求に必要な書類等を交付する条件として、その作成提出を被告Sに強要したと同視できる状況が認められ、労働基準法の精神に照らすと、そのようにして作成された本件誓約書に法的効力を認めることは出来ないと解するのが相当である。」(「消防試験協会・消火設備試験センター事件」東京地裁H15.10.17)

このように、労働者の退職後の行為を規制する誓約書を有効なものにするためには、誓約書をかわすことによって生じる労働者の不利益に見合った代償措置を講じる必要があるといえます。

最後に、規定の無い場合の競業避止義務違反についての対応ですが、「不正競争防止法」に基づき不法行為として、差止請求権(同法第3条)、損害賠償(同法第4条)、信用回復の措置(同法第7条)という法的措置を取ることは可能です。

「単なる転職の勧誘を超えて社会的相当性を逸脱した違法な引抜き行為は、不法行為に該当しこれを行った元営業本部長は雇用契約上の誠実義務違反、同業他社は、損害賠償責任を負う。」(「ラクソン事件」東京地裁H3.2.25)

 他には、極めて悪質な競業行為を行う場合、特別な約束なしに退職後の競業避止義務が認められるとした判決(「チェスコム秘書センター事件」東京地裁H5.1.28 )等があります。