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人事労務重要用語

[D]「合理性」の6つの判断基準の具体的な内容を判決文を通して確認してみます。

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�@不利益の内容(種類)・程度

・みちのく銀行事件:55才時の賃金減額により、賃金総額を比較すると額ではマイナス約1265万円から2000万円、減額率ではマイナス33%から43%程度。一方、若年層の行員は給与が上がり、総額人件費も増額していた。高度の必要性はあり、70%の多数組合と合意したとしても、特定の層の行員への大幅な不利益を課し、緩和措置の効果が十分でなく、公平性に欠け、全体的には相当性がないとして合理性に欠けるとしています。
必要性、緊急性と比較考慮して不利益の程度が大きすぎた場合といえる。

・第四銀行事件:定年延長に伴い、55歳からの3年間の給与総額と定年延長後の60才までの5年間の給与総額がほぼ同額(2年間は無報酬と同じ)となり、相当な不利益と見ざるを得ないとしながらも、結論としては合理性を認めています。

・北都銀行事件・函館信用金庫事件:週休2日制導入に伴う平日の所定労働時間の延長について、「不利益は小さなものとはいえない」としているが、上記2つの賃金減額と比べると大した不利益ではない。判決も合理性有りとしている。

�A変更の必要性(本来ならば反対する者には説得して同意を得なければならないが、その同意に代える程の背景・事情の必要性)

・大曲市農協事件:7つの農協の合併に伴い、6つの農協は変更に合意しているが1つの農協だけが反対している状況で、「これをこのまま放置するならば、人事管理が複雑かつ困難になることは勿論、職員の間に待遇の面で不公平感を醸成し、ひいては勤労意欲に影響を及ぼし・・・と高度の必要性」を認めています。

・みちのく銀行事件:年功序列型賃金体系のもと、高年齢層の割合が多いため、組織改革と賃金の抑制を図る必要があった。経営効率を示す諸指標が下位を低迷し弱点のある経営体質を有していた等・・・として「高度の経営上の必要性」を認めています。

・第四銀行事件:55歳定年を60歳に延長することに伴う賃金の減額に関して、労働力人口の高齢化、60歳定年への国家的政策課題、社会的な強い要請を背景として、「これを変更する必要性も高度なものであったということができる」としています。

・北都銀行事件・函館信用金庫事件:週休2日制導入に伴い、平日の所定労働時間を延長した事件でそれぞれ「就業規則変更の必要性があるということができる」「変更の必要性が高いということができる」としています。(この2つの事件は、休日が増え、年間総労働時間が減っているので、不利益の程度は低いと思われる。)

�B変更後の内容自体の相当性

・みちのく銀行事件:「60歳の定年5年前で、賃金が頭打ちにされるどころか逆に半額に近い程度に切り下げられることになったものであり、これは、55歳定年の企業が定年延長の上、延長後の賃金水準を低く抑える場合(第四銀行事件等)と同列に論じることはできない。」「本件では、中堅層の賃金について格段の改善がされており、被上告人の人件費全体も逆に上昇しているというのである。企業経営上、賃金水準切下げの差し迫った必要性があるのであれば、各層の行員に応分の負担を負わせるのが通常であるところ、本件は、そのようなものではない。」とし、公平性及び全体的なバランスの観点から「本件就業規則等の変更内容の相当性を肯定することはできないものといわざるを得ない」と合理性を否定しています。

・第四銀行事件:55歳以後の5年間の収入総額が、従前の3年間の総額とほぼ同じという不利益はあるが、60歳までの雇用の確保という全体としての利益を考慮して総合判断をする上での相当性を認めています。

・北都銀行事件、函館信金事件:「変更後の所定労働時間(年間総労働時間は変更前よりも短縮)は当時のわが国の水準として必ずしも長時間ではなく・・・その変更内容には社会的な相当性がある」と判示しています。

�C代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況

・大曲市農協事件:「休日・休暇・諸手当・旅費の面において有利な取扱を受けるようになり、定年は男子が1年間、女子が3年間延長等の措置」を直接の見返りないし代償ではないにしても合理性を判断するに当たって考慮することのできる事情としている

・第四銀行事件:58歳より2年間定年延長され雇用が確保されるという利益は決して小さいものではない。また福利厚生制度の適用延長や充実、特別融資制度の新設等は年間賃金額の減額に対する直接的な代償措置とはいえないが・・・不利益を緩和するものということができるとしています。

・みちのく銀行事件:仙台高裁の控訴審では、選択定年加算金制度の改定(支給乗率の引上げ)、行員特別融資制度(特別金利によるローン)の新設、行員住宅融資制度の改訂(返済猶予)、企業年金制度の改訂(年金額の増額)等の代償措置を評価し合理性有りと判示したが、最高裁は(本件のように不利益の程度が著しく大きい場合は)就業規則等変更の当時既に55歳に近づいた行員にとっては、救済ないし緩和措置としての効果が十分ではないとして、変更内容の相当性を肯定することはできないと合理性を否定しています。

�D多数組合等との交渉の経緯(他の労働組合又は他の従業員の対応)

・原則的には、第四銀行事件で判示している通り、「多数組合との労働協約に基づく合意は労使間の利益調整がされた結果としての合理的なものであると一応推測することができる」と合理性の推定と評価できるといえます。

・一方、みちのく銀行事件では、不利益の程度が大きい場合は、「労組の同意を大きな考慮
要素と評価することは相当ではないというべきである」と判示しました。

・函館信用金庫事件の札幌高裁の控訴審判決では、多数組合(従業員数約210人中、組合員約100人)と使用者との協議・交渉について多くの問題点を指摘していたし、使用者は就業規則変更に際して労基法上の意見聴取義務を履践せず、労基署からの指導を受けた後も誠実さを欠いた交渉姿勢をとり続け、実質的な協議を行わなかったという点の不備を重く見て不合理を認定したと解釈されていたが、最高裁は従組との協議が十分なものであったとはいい難いこと等を勘案してもなお・・・・必要性のある合理的な内容のものである、としています。
以上のことからすると、多数組合との合意は重要な判断要素ではあるが、総合判断をするうえでは不利益の内容・必要性が重視され、それに次ぐ判断基準といえるでしょう。

�E同種事項に関する我が国社会における一般的状況

・秋北バス事件:「わが国産業界の実情に照らし・・・比較均衡からいっても、低きに失するものとはいえない」

・第四銀行事件:「その賃金水準も、他行の賃金水準や社会一般の賃金水準と比較して、かなり高いものである」として他との比較により合理性有りの理由付けの1つと評価しています。

・北都銀行事件:「他の地方銀行も完全週休2日制の実施に際して平日の所定労働時間を延長する措置を執っており、都市銀行においても月初め・月末の大幅な所定労働時間延長などの措置が執られている」「北都銀行は、全国の地方銀行63行中で最も短いものから数えて7番目に位置する。・・・変更後の週36時間40分又は週40時間という所定労働時間は、当時我が国の水準として必ずしも長時間ではなく、他行と比較しても格別見劣りするものではない。そうすると・・・本件就業規則変更については、その内容に社会的な相当性があるということができる。」と判示しています。(函館信金事件においても同旨)

・みちのく銀行事件:仙台高裁では、他行との比較、青森県における全産業の平均年収と「対比してみても遜色のないもの」としましたが、最高裁は「・・に比べてなお優位にあるものである。しかし、・・変更後の右賃金水準が格別高いものであるということはできない。また・・(第四銀行事件等)と同列に論じることはできない。」として不利益の程度が大きい場合は世間水準との比較においても相当ではないと厳しく指摘し合理性を否定しました。