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人事労務重要用語

[C]労働者の合意に代わる合理性とはどのような基準をいうのでしょうか?(合理性の判断基準)

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�@先ず、変更する労働条件の内容・項目によって判断基準に差はあるのか?

 合理性の背景には、解雇回避があることを考えると差があると考えるべきでしょう。

 (1)賃金、退職金等の重要な権利、労働条件
 (2)労働時間その他の労働条件

 賃金・退職金の減額を争った第四銀行事件やみちのく銀行事件では、「高度の必要性に基づく合理的な内容」を求めるのに対して、所定労働時間延長に基づく不利益変更を争った北都銀行事件、函館信用金庫事件では、労働時間が賃金と並んで重要な労働条件といいながら、合理的内容に関しては「高度」という言葉が抜けていることが指摘されています。

判決文の内容から判断すると、労働時間と賃金関係では、その不利益変更に関して「合理性」の判断において差があるとみるのが妥当だと思われます。

�A6つの具体的な判断基準

 労働条件の一方的な引下げを有効と認めるには、それ相応の経営上の必要性が問題となります。特に、賃金・退職金などの労働者にとって重要な権利や労働条件を不利益に変更するには、「そのような不利益を法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合」(合理性)が要求されます。

 合理性の有無を判断するには、次の6つの内容・要素を総合考慮する、としています。

 
�@就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度
�A使用者側の変更の必要性の内容・程度
�B変更後の就業規則の内容自体の相当性
�C代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
�D労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応
�E同種事項に関する我が国社会における一般的状況等

                   (第四銀行事件、みちのく銀行事件より)

 合理性の判断をする前提としての会社側の事情は、次の3つのケースに区分して考えるのが妥当と思われます。
 (1)将来の倒産を避ける必要のある場合、或いは会社の制度が古く現在の社会変化に対応せず今後、発展していくためにはどうしても必要な場合
 (2)企業経営上労働条件を切り下げなければならない程に差し迫った経営上の必要性があり急務を要する場合
 (3)企業の倒産必至の危機的な場合で、これを避けるためには人員整理をして大幅な人員縮小が企業の再建上必要とされているようなケースで、人員整理をしたのと同じような大幅な賃金引き下げ等を行うこと以外に雇用を維持する方法がないという整理解雇回避の手段とする場合(大幅な賃下げか整理解雇かの二者択一の瀬戸際の場合)

(1)の場合
 ・職階及び役職制度等の人事制度の変更は合理性 ⇒可
 ・賃金・退職金の重要な労働条件の大幅な不利益 ⇒不可
  (時間的に余裕があるのであれば可能な限り本人の同意を得る努力が必要)

(2)の場合
 ・賃金・退職金の重要な労働条件の大幅な不利益変更であっても、「特に当該企業の存続自体が危ぶまれたり、経営危機による雇用調整が予想されるなどといった状況」という使用者側の変更の高度の必要性が有る場合 ⇒ 可
 ・「代償措置」⇒原則必要。但し、緊急事態でその余裕がないような場合⇒不要
 ・企業存続のための不利益は実質的公平を図り平等、公正な取り扱いの配慮 ⇒必要

(3)の場合
 ・整理解雇するか、大幅に賃金を引下げても雇用を維持して経営再建を図るという瀬戸際のケースの場合には、大幅な労働条件の引下げであっても「整理解雇」と「雇用維持の利益」との均衡からみて合理性が認められることになります。
 ・整理解雇の要件を充足する必要があります。

  �@業務上のやむを得ない必要性のあること
  �A解雇回避のための相当な努力が尽くされたこと
  �B労働者に説明が行われ理解と協力を求める真摯な努力が尽くされたこと 等


�B不利益変更の合理性判断における「総合判断の困難性」について

 最高裁は、不利益変更における合理性判断の基準を例示し、それを総合考慮して判断すべきである、といっていますが、その判断要素の軽重については何ら具体的に示していないことから総合判断することの困難さ及び予測可能性の困難さが指摘されています。

 このことに関しましては、小林亘判事「就業規則の不利益変更と合理性(2)」新裁判実務体系16・労働関係訴訟[1]P2〜8の文書を抜粋致します。
 「このように各考慮事項を総合して判断する場合には、更に、その各考慮事項をどのような比重でどのように関連付けて評価すべきかが問題となる。賃金や退職金は、労働時間と並んで極めて重要な労働条件であり、第四銀行事件も賃金・退職金を労働者にとって重要な権利・労働条件であるとした上で、これを労働者の不利益に変更するについては、当該条項が高度の必要性に基づいた合理的な内容のものでなければならないとしている。しかし、これ以外の考慮事項をどのような比重をもって評価すべきかについては、最高裁判所によっても明確であるとはいえない。」

 「不利益変更とその代償措置がともに金銭に見積もることができるのであれば比較考慮は容易ではあるが、右考慮事項の中でも、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等といった事項は、とりわけ計量化が難しい。

 また、他の労働組合又他の従業員が不利益変更を承諾しているという事情は、他の労働組合又他の従業員と当該従業員との利害が同一である場合には不利益変更の合理性を推測させるひとつの事情になり得るであろうが、例えば、高年齢者の賃金を削って若年労働者の賃金に振り向ける場合とか、職種間の利害が相反する場合のように、不利益変更について従業員間の利害が対立する場合には対立する他の労働組合又は他の従業員が承諾しているという事情があるからといって、そのことから合理性を推測するには慎重な配慮が必要である。

 若年労働者の賃金を引き上げるために高年労働者の賃金を引き下げるについては、若年労働者もいずれは高年になるのだから不公平ではないといった理由付けは、年功序列が崩れ労働市場の流動化が進んでいる現在においては、あまり説得力はない。」「関連事項や合理性を判断するには必要な考慮事項が多くなればなるほど各考慮事項間の相関関係が複雑になるから、微妙な事案では、判断者の各考慮事項の重要度に対する評価の違いにより合理性の判断について結論に違いが生ずることになる。

 各考慮事項をどのような比重で比較考慮するかについて、係数化した判断基準を定立することができればより判断の客観性は確保されるであろうが、事柄の性質上、そのような判断基準の定立は極めて困難であり、結局、合理性の有無は、従前の裁判例などを参考にして、具体的事件ごとに前記各考慮事項を総合して社会通念によって決するほかはない。」と合理性有無の判断における総合判断の困難さを指摘しています。

�C不利益変更の合理性を判断する場合において「判断基準の比重」は有るのか?

 (1)社会的相当性は変更の内容と必要性から判断
不利益変更の合理性の総合判断においては、「不利益変更の内容・程度」と「変更の必要性」の比較考慮が基本になると思われる。賃金・退職金の重要な権利、労働条件を不利益に変更するには、高度な必要性が要求される一方、その他の労働条件の不利益変更には、「高度な」までの必要性がなくても有効と判断される場合があると思われます。
「変更の内容」と「変更の必要性」を比較考慮する上で、その判断を調整する要素として「変更内容の社会的相当性」が有るかどうかという判断を加えた3つの要素が中心的な判断基準といえます。

 (2)多数組合との合意の重要性(他の労働組合又は他の従業員の対応)
 多数組合との合意は、手続面からのアプローチとして重視されているといえます。
 又、そもそも個別の合意が得られない場合に、その合意に代わる合理性の有無を判断している問題であるので、合意を得る努力をすることは当然の前提であり、全く又はほとんどしないというのは、本来、論外といえるでしょう。

・第一小型ハイヤー事件:従業員集団として利益調整を重視しています。
・第四銀行事件:行員の90%にあたる多数組合との交渉、合意により「労使間の利益調整がされた結果としての合理的なものであると一応推測することができ、・・・」と合理性の推測を肯定しています。
・みちのく銀行事件:違う判断を示しています。
 行員の約70%にあたる多数組合の合意があったにもかかわらず、55歳以上の特定層の労働者のみに大きな不利益を与える場合等の公平性に欠ける場合は合理性を否定しています。「上告人らの被る前示の不利益性の程度や内容を勘案すると、賃金面における変更の合理性を判断するに際し労組の同意を大きな考慮要素と評価することは相当ではない」と判示しています。
このことは、多数組合の合意により合理性の推測は一応可能であるが、不利益の程度によっては内容審査により合理性を否定する場合もあることを示しています。
 逆に、多数組合が存在するにもかかわらず、これと真摯な協議をせず合意もできなかった場合、合理性は否定されるのかが問題となります。

・函館信用金庫事件:多数組合が強く反対し協議が十分なものであったとは言い難いこと等を勘案してもなお、本件就業規則変更は、不利益を労働者らに法的に受忍させることもやむを得ない程度の必要性のある合理的内容のものであるとして、就業規則変更の合理性を肯定しています。
従って、組合と協議を行い、合意を得ることは重要であるが、それが不十分であっても直ちに合理性が否定される訳ではなく、(法改正を背景とする労働時間短縮のような)必要性と変更内容の相当性が高度に認められれば、合理性が肯定される場合があるといえます。
但し、対象となる労働条件が賃金の場合は、組合との誠実な協議は不可欠と思われます。

合理性の総合判断においては、�@「変更の内容」と�A「変更の必要性」を比較考慮し、そのバランスを調整する要素とする�B「変更内容の社会的相当性」を加えた3つが中心的判断要素であり、これに手続的な要素である�C「労働組合や他の従業員との交渉の経緯」を含め、
更に、緩和措置である�D「経過措置」と世間相場的な�E「同種事項の一般的状況」を加えて6つの要素を基に総合判断を行うことになります。