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重要労働判例特集

京電工事件【タイムカードの証拠能力】(仙台地裁 H21.04.23)

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電気通信設備工事等を業とする被告Y社に中途採用された原告Xが、数度にわたる施工ミスに加え、高所作業者で交通事故を発生させたことにより、Y社代表者の退職勧奨を受け退職届を提出した件につき、Xが懲戒解雇同様の不利益処分を受けたとしてなした不法行為に基づく損害賠償請求、及び超過勤務による割増賃金請求、付加金請求をした事案である。

Xは、平成17年11月、Y社に経験豊富な技術管理職として中途採用され、技術系社員として就労していた。しかし、試用期間経過後の平成18年3月頃から、Xの勤務態度には、仕事に対する意欲の消失、緊張感の欠如、初歩的なミス、時間管理能力の欠如と評価されるようなものが現れるようになり、Xが施行した工事につき改善工事ややり直し工事が発生するなどした。

平成19年6月28日、Xは、Y社の高所作業車を移動させる際、後方を確認せずにバックし、近隣住民が駐車していた外国製自家用車に接触し前部バンパーとフロントグリルを損傷させる事故を発生させた。また、当該自動車の保有者に対するXの謝罪の態度にも問題があったため、示談交渉をこじらせることとなった。

①退職に関する件
Y社の代表者であるAは、この事故の発生を受け、Xの度重なる問題行動に危機感を抱き、Xに退職勧奨をしようと考えた。Aは、同年7月9日、Xに対し強い調子で、辞めてほしいというY社の意思をXに伝えた。そして、AはXに退職届を提出するよう促し、Xは、文面についてAに尋ねる等したうえで、その場で同日を退職日とする「一身上の都合により退職します。」という内容の本件退職届を作成し、Aに提出した。

しかしXは、後になってY社から排除されたことに納得がいかなくなり、平成19年7月11日に文書によって本件退職届の取消しを通知した。

判決は、Aが、えん曲な表現ではあるが強い口調でXに退職を勧奨したことから、Xとしては、もはや自主的に退職届を作成する以外に方法はないとの緊迫した状況に置かれ、不本意ながらもやむを得ず、本件退職届を作成・提出したものであり、「本件退職届けの存在をもって、Xが、任意かつ自主的に本件雇用契約の解消を決断したと評価することはできない」として、自主退職であるとするY社の主張を退けた

そして、Xが業務中に起こした事故は、特殊車両を運転する際の基本的かつ初歩的な注意を怠ったことによって発生した、人身被害を伴う可能性の高いものであり、Xの最も重要な問題点はそれが繰り返されたという点であるとし、Xが行った問題行動は、Y社就業規則における懲戒解雇事由の一つである「故意または重大な過失により会社に重大な損害を与えたとき」に該当するとし、Y社には懲戒解雇をする合理的な理由があったと認めることができるとした

しかし判決は、他方で、本件処分は懲戒処分の一種であるから、本件処分の事由のあることについての労働基準監督署長の認定を受けた場合のほかは、少なくとも30日前に予告をするか、又は平均賃金の30日以上の予告手当をXに支払うことが必要であった」としてYの手続き上の不備を指摘し、本件処分はその手続において違法といわざるを得ないものであって、不法行為が成立するとした。そして、Y社に対し、解雇予告手当相当額にあたる57万余円の支払いを命じたうえ、慰謝料については手続的違法にとどまるとして10万円を認めている

②割増賃金請求に関する件
Xが勤務時間後、「パソコンゲームに熱中したり、あるいは事務所を離れて仕事に就いていなかった時間があることが窺われる」としてYの言い分も認めつつも、Y社においては労働者の労働時間の管理をタイムカードで行っていたのであるから、タイムカードに打刻された時間の範囲内は、仕事に当てられたものと事実上推定されるべきであるとし、Xの割増賃金請求につき、タイムカードの打刻をもとに算定される同人の外形的労働時間に、実際には職務に従事していない時間が相当含まれていることを認めながらも、除外すべき時間帯が特定されていないこと等を理由に、X主張のタイムカードに基づく時間外・深夜・休日労働時間を認め、請求と同額の389万余円の支払いをY社に命じた

ただし、Xの外形的な労働時間が必ずしも実態に反映したものでないことは、付加金請求において考慮され、労基法114条ただし書の時効にかかっていない期間分を対象としたうえで、その5割に相当する186万余円限度で請求を認めている。

※タイムカードで労働時間管理(残業時間)をする場合は、実働時間に限り打刻するようにすることが重要です。(藤本)