社会保険労務士 藤本事務所(大阪) は、労働保険・社会保険の事務処理の代行、給与計算、助成金申請、人事・労務管理に関するご相談、日本版401K導入、派遣業、建設業等の許認可申請、会社設立などに関する業務を行っております。

重要労働判例特集

大曲市農協事件「不利益変更:退職金規程の不利益変更の必要性、代償措置の有効性等」(最高裁第三小法廷判決:S63.2.16)

| コメント(0) | トラックバック(0)


【事件の概要】
 大曲市農協は昭和48年に7つの農協が合併したものであるが、合併に際し、それぞれの農協の給与、退職金等の規定が相違していたので、これらの規定の統一が必要であった。
 給与については、7農協中最も高額であった大曲農協の給与に準拠して調整したが、退職金については、ほぼ同水準であった6農協の退職金規程に準拠して新しく昭和49年職員退職給与規程を作成した。ところが、旧花館農協だけは他農協に比べて退職金が高水準であったため、旧花館農協職員にとっては合併後の新退職給与規程は合併前に比べ不利益なものとなり、旧花館農協時代から引き続き勤務し、昭和53年から56年にかけて定年退職した本件の3人の労働者について旧規定と新規定による退職給与金額を比較すると、1人は1、351万円が1、173万円(▲178万円)に、1人は、1、089万円が910万円(▲179万円)に、もう1人は1、103万円が972万円(▲131万円)になった。
 そこで、この3人の労働者が、新退職給与規程は不利益変更であって効力がなく、旧花館農協の退職給与規程によるべきだとして差額の支払いを求めた。
 1審は、新退職給与規程に合理性ありとしたが、2審は合理性なしとして労働者の請求を認めた。
 最高裁は、次のように述べて、退職給与規程の改正は合理性があり、旧規定による退職金の支払い義務はないとした。

【判決要旨】
 当裁判所は、昭和43年12月25日大法廷判決において、「新たな就業規則の作成または変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない」との判断を示した。右の判断は、現在も維持すべきものであるが、右にいう当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみてそれによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうと解される。特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し、実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成または変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受認させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。
 これを本件についてみるに、まず、新規程への変更によって被上告人らの退職金の支給倍率自体は低減されているものの、反面、被上告人らの給与額は、本件合併に伴う給与調整等により、合併の際延長された定年退職時までに通常の昇給分を超えて相当程度増額されているのであるから、実際の退職時の基本月俸額に所定の支給倍率を乗じて算定される退職金額としては、支給倍率の低減による見かけほど低下しておらず、金銭的に評価しうる不利益は、本訴における被上告人らの前記各請求額よりもはるかに低額のものであることは明らかであり、新規程への変更によって被上告人らが被った実質的な不利益は、仮にあるとしても、決して原判決がいうほど大きなものではないのである。他方、一般に、従業員の労働条件が異なる複数の農協、会社等が合併した場合に労働条件の統一的画一的処理の要請から、旧組織から引き継いだ従業員相互間の格差を是正し、単一の就業規則を作成、適用しなければならない必要性が高いことはいうまでもないところ、本件合併に際しても、右のような労働条件の格差是正措置をとることが不可欠の急務となり、その調整について折衝を重ねてきたにもかかわらず、合併期日までにそれを実現することができなかったことは前示したとおりであり、特に本件の場合においては、退職金の支給倍率についての旧花館農協と他の旧6農協との間の格差は、従前旧花館農協のみが秋田県農業共同組合中央会の指導・勧告に従わなかったことによって生じたといういきさつがあるから、本件合併に際してその格差を是正しないまま放置するならば、合併後の上告組合の人事管理等の面で著しい支障が生ずることは見やすい道理である。加えて、本件合併に伴って被上告人らに対してとられた給与調整の退職時までの累積額は、賞与及び退職金に反映した分を含めると、おおむね本訴における被上告人らの前記各請求額程度に達していることを窺うことができ、また、本件合併後、被上告人らは、旧花館農協在職中に比べて、休日・休暇、諸手当、旅費等の面において有利な取扱いを受けるようになり、定年は男子が1年間、女子が3年間延長されているのであって、これらの措置は、退職金の支給倍率の低減に対する直接の見返りないし代償としてとられたものではないとしても、同じく本件合併に伴う格差是正措置の一環として、新規程への変更と共通の基盤を有するものであるから、新規程への変更に合理性があるか否かの判断に当たって考慮することのできる事情である。
 右のような新規程への変更によって被上告人らが被った不利益の程度、変更の必要性の高さ、その内容、及び関連するその他の労働条件の改善状況に照らすと、本件における新規程への変更は、それによって被上告人らが被った不利益を考慮しても、なお上告組合の労使関係においてその法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものといわなければならない。したがって、新規程への変更は被上告人らに対しても効力を生ずるものというべきである。