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重要労働判例特集

秋北バス事件「不利益変更:新たに設けた定年制に基づく解雇の効力」(最高裁大法廷判決S43.12.25)

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【事件の概要】
 会社は、従来定年制の定めはなく、昭和30年7月に施行された「従業員は、満50歳を以て停年とする。停年に達したるものは辞令を以て解職する。但し、停年に達したるものでも業務上の必要有る場合、会社または本人の人格、健康及び能力等を勘案し詮衡の上臨時又は嘱託として新に採用する事がある」との就業規則57条の規定も、主任以上の職にある者に対しては適用がなかった。ところが、昭和32年4月、当該規定の本文を「従業員は満50歳を以て停年とする。主任以上の職にあるものは満55歳を以て停年とする。」と改正し、すでに満55歳に達していた上告人に対し、退職を命ずる旨の解雇の通知をした。上告人は、当該規定に同意を与えた事実はなく、満55歳の定年を定めた規定は上告人に対し効力が及ばないとして、解雇の無効を主張した。

【判決要旨】
 (1)元来、「労働条件は、労働者と使用者が対等の立場において決定すべきものである」(労働基準法2条1項)が、多数の労働者を使用する近代企業においては、労働条件は、経営上の要請に基づき、統一的かつ画一的に決定され、労働者は、経営主体が定める契約内容の定型に従って、附従的に契約を締結せざるを得ない立場に立たされるのが実情であり、この労働条件を定型的に定めた就業規則は、一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている(民法92条参照)ものということができる。
 そして、労働基準法は、右のような実態を前提として、後見的監督的立場に立って、就業規則に関する規制と監督に関する定めをしているのである。すなわち、同法は、一定数の労働者を使用する使用者に対して、就業規則の作成を義務づける(89条)とともに、就業規則の作成・変更にあたり、労働者の意見を聴き、その意見書を添付して所轄行政庁に就業規則を届け出で(90条参照)、かつ労働者に周知させる方法を講ずる(106条1項、15条参照)義務を課し、制裁規定の内容についても一定の制限を設け(91条参照)、しかも就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならず、行政庁は法令又は労働協約に抵触する就業規則の変更を命ずることができる(92条)ものとしているのである。これらの定めは、いずれも、社会的規範として拘束力を有するに至っている就業規則の実態に鑑み、その内容を合理的なものとするために必要な監督的規制にほかならない。このように就業規則の合理性を保障するための措置を講じておればこそ、同法は、さらに進んで、「就業規則に定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分について無効とする。この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」ことを明らかにし(93条)、就業規則のいわゆる直律的効力まで肯認しているのである。
 右に説示したように、就業規則は、当該事業場での社会的規範たるにとどまらず、法的規範としての性質を認められるに至っているものと解すべきであるから、当該事業場の労働者は、就業規則の存在及び内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わずに、当然に、その適用を受けるべきものというべきである。
 (2)就業規則は、経営主体が一方的に作成し、かつ、これを変更することができることになっているが、既存の労働協約との関係について、新たに労働者に不利益な労働条件を一方的に課するような就業規則の作成又は変更が許されるかどうか、が次の問題である。
 おもうに、新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解すべきであり、これに対する不服は、団体交渉等の正当な手続による改善にまつほかない。そして、新たな定年制の採用のごときについても、それが労働者にとって不利益な変更といえるかどうかは暫くおき、その理を異にするものではない。
■3名の裁判官の反対意見あり(裁判長横田正俊、大隅健一郎、色川幸太郎)